ティラミスは層になっている。エスプレッソの染み込んだビスケットの上にマスカルポーネチーズクリーム、それを2、3層重ねて最後にココアパウダーを振りかける。この完成度の高いスイーツが失敗の賜物であると聞くと驚くかもしれない。
ティラミスを発明したシェフは、本当はバニラアイスクリームを作りたかったらしい。ところが作っている途中、卵と砂糖の入ったボウルに誤ってマスカルポーネチーズを落としてしまった。
このシェフの聡いところは、ボウルに入っている未知のクリームを捨てずに味見したところだ。すると意外、美味しかった。これがティラミスの誕生につながったそうだ。
素晴らしいアイデアは時に失敗から生まれる。たしかに「怪我の功名」ともいう。しかし、もっと踏み込んで考えてみたい。というのは、発明につながる失敗だけが価値があるということではないのだ。ここで伝えたいのは、あらゆる失敗に価値があるということである。むしろ、そのように捉えたなら人生に失敗はない。
失敗は存在しない。
あるのは学習だけである。
『潜在能力でビジネスが加速する』p. 150
そう訴えるのは能力開発の世界的権威であるポール・シーリィだ。彼はフォトリーディングという読書法とナチュラル・ブリリアンス・モデルという問題解決技法を開発した。
この二つの方法に共通するのは、誰もが内に天才性を秘めている、という発想である。どんなチャレンジであっても乗り越えていける、頼もしい ”私” は発見されるのを待っている。それを秘めずにおくのではなく引き上げようじゃないか、と。
これから紹介するのはポール・シーリィ博士が開発した、内に宿る天才性を引き出す方法だ。その方法のうちまず、「どう本を読むか」について説明していこう。
どうやって本を読んだらいいのか?
私はポール・シーリィの読書法を知るまで、どのように読書すればいいのかということが分からなかった。読んでいてもなんだか心許ないのだ。「読んでいるつもりだけど、ちゃんと読めているのか」とか、あるいは、「そもそも本を読むというのはどういうことなのか」とか、そんなことを考えていると文字を追っていても意識がうわ滑っている感じがする。
本を読みたいのに読めない。それは例えるなら、とてもお腹が空いていて美味しそうな缶詰があるのに缶抜きがないような状況だ。精神的に飢えているのに摂取の方法がわからないのだ。
しかし、読書には明確な手順がある。そのコツは、理解の層を重ねることにある。
理解の層を重ねる
ポール・シーリィの著書に出会ってから、どうして以前、私が本を読めなかったのかが分かった。それは完璧主義だ。本の内容を完璧に、もっと欲張って、一度に理解したいと思ったとき、私は読書に躓いていたのだ。
小学校で教え込まれた読書は、「最初に読んだときから完璧に理解していなければならない」という強迫観念を与えます。「一度読んだだけですべてを理解できなければ、読み手として失格だ」と、思ったことはありませんか?ミュージシャンには「一度楽譜を見ただけで完璧に演奏しなければならない」という強迫観念はありません。どうして読むときに限って、完璧を求めなくてはならないのでしょうか。
『新版 あなたもいままでの10倍速く本が読める』p. 51
「一度読んだだけですべてを」に無理があるのだ。「本を読む」と一口にいっても、実際に心が行っている作業は多岐にわたっている。
文書を読むとき、最初の一回でやらなければならないと考えていることを、あげてみましょう。「文章構成の把握」「キーワードのチェック」「要旨の理解」、そしてさらに「文章の記憶」「内容の分析・評価」「正確な引用」、これらすべてができなくてはならない・・・。こんな多大な要求をされては、私たちの意識は圧倒され、機能停止に陥ってしまいます。
『新版 あなたもいままでの10倍速く本が読める』p. 52
焦らなくていい。一巡ずつ目的を変え、読むスピードを変えて何回も本を読めばいいのだ。欲張らず、丁寧に丁寧に。エスプレッソの染みたビスケットを敷いてからクリームをのせる。クリームを載せてからココアパウダーを振りかける。ティラミスがそのように完成されていくように、読書も層を積み重ねて完成する。
その積み重ね方について、ポール・シーリィはおおまかに 5 段階の積み重ねを推奨している。それは以下に示す手順だ。
- 準備
- 予習
- フォトリーディング
- 復習
- 活性化
さらに細かい手順は下記のマインドマップで簡単にまとめられている。詳細は、実際に『新版 あなたもいままでの10倍速く本が読める』を購読してもらいたいが、かいつまんで各ステップの説明を試みよう。あるいは、まずはこの記事の概要を知りたいという方は小見出しの「読書のための道具箱」までスキップしていただきたい。
準備
最初のステップの〈 1. 準備 〉は、目的を明確にして、読むための理想的な心の状態に入るステップだ。本格的に本を開く前にまず、「なんでこの本を手に取ったのか」、その目的を考えるのだ。この本からどんな良さを感じているのか、その良さを得るためにはどれくらい細かく読む必要があるのか、そして、それだけ細かく読むために今どれだけ時間をとれるのか・・・そういったことを自問自答をしていく。そのように目的意識を定めたうえで深呼吸をして、心身をリラックスさせる。
思えば、本を読むというのは著者と自分との対話だ。もし著者にインタビューをするとなったら、自分の中で問題意識を整理して、準備しておくだろう。読書も同じだ。本に入り込む前に自分自身をみつめる。これほどまでに「理解の層を積み重ねる」というのは急がず丹念に重ねていくのだ。
予習
つづく〈 2. 予習 〉では、文書をざっと見渡して、読もうとしている本に〈 1. 準備 〉で確認した目的に応えるものがあるかを検討する。このステップで重要なのは「ざっと見渡す」ことだ。いきなり重箱の隅をつつくような読み方をしない。目次だけ見る。あるいは、本当にぱらっと本を開いて、本の雰囲気を感じる。これを気軽にやるのだ。作業としては 1 分も満たない作業である。
また、〈 2 . 予習 〉をして〈 1. 準備 〉で明らかにした読む目的と照らし合わせて「これは読む必要はないな」と思ったら「読まない選択をする」ことが〈 2. 予習 〉では肝要だ。読む読まないの判断をここで下すのだ。あくまで目的にそった行動をしていくのである。この「目的」が読書を有意義に、そして、効率的にしていくエンジンになる。
フォトリーディング
ポール・シーリィの読書法の中核をなす〈 3. フォトリーディング〉手順は、
- 準備
- 加速学習モード
- アファメーション
- フォトフォーカス
- 安定した状態
- アファメーション
である。このステップでは目的を再確認し ( a. ) さらに深いリラクゼーションをする ( b. ) ことで読書に最適なモードに入っていく。この状態で今から読書をすることの自己暗示をかける ( c. ) 。その後、「フォトフォーカス」という、普段はやらないだろう目の使い方をしてリズムよくページを繰っていく ( d. と e. )。ページが終わりまで来たら、フォトリーディングの終了を自分自身に宣言して終わる ( f. )。
このフォトフォーカスというのが聞きなれないと思うので、著者の説明を引用しよう。
まず、少し離れた壁に一箇所、見つめる場所を決めます。その一点を見つめながら、両手を目から40~50 センチの距離に持っていきます。そして、両手の人差し指の先端をくっつけてみてください。何かに焦点を合わせなければ、と思わずに、目をリラックスさせます。指越しに壁の一点を見ていると、ある現象が起こります。指先と指先の間に、次ページの図1のような第三の指が見えてくるでしょう。第三の指は、ちょうど小さなソーセージのように見えます。
『新版 あなたもいままでの10倍速く本が読める』p. 108
この、ソーセージ効果を応用してフォトフォーカスの状態に入っていく。
まず、見開きの本越しに向こうにある壁の一点を気楽に見つめます。本の四隅や行間の余白を意識しながら、壁を見つめてみましょう。視線が分散しているので、左右のページの間の本の綴じ目がダブって見えてくるでしょう。やがて、前ページの図2のように紙を細く丸めたような筒状の第三のページが現れます。例のソーセージと同じ現象です。私はこれを「ブリップ・ページ」と呼んでいます。
『新版 あなたもいままでの10倍速く本が読める』p. 110
フォトリーディングでは、このフォトフォーカスの状態でページをリズムよく繰っていく。こうして「視覚で取り込んだ情報をダイレクトに無意識の領域に送り込む」ことをしていくのだ。
「無意識の領域に送り込む?なんか怪しいな」と思うのはある意味正しい反応だろう。しかし、別にお金を取られるわけでもなければ、長時間かかるわけでもない。目の面白い使い方を、遊び心で試してみよう。
復習
復習はできるだけフォトリーディングの直後に行う。復習の手順は文書を改めて見直し(調査)、トリガーワードを見つけ、質問を作ることだ。
「トリガーワード」は、強調されながら何度も使われている語句で、その本の中心的なキーワードです。トリガーワードは、読み手が文書の意味を正しく理解できるように、うまく誘導してくれているのです。
『新版 あなたもいままでの10倍速く本が読める』p. 124
このようにトリガーワードを拾ったり、本に対して浮かんだ質問を控えておく。そうしておくことで、最後のステップ、活性化に備えるのだ。
活性化
最後のステップ、活性化は、設定した目的を満たすために必要な情報を意識の上で認識できるようにすることを目的とする。活性化は、
- 生産的休憩をとる
- 質問を見直す
- スーパーリーディング と ディッピング
- マインドマップ
- 高速リーディング
以上のような手順を踏む。
活性化の最初のパートは20分~24時間、文書を脇によけておくことだ ( a. )。生産的休憩を取った後は、〈 4. 復習 〉で控えておいたトリガーワードや質問を見直す ( b. )。質問の見直しが終わったら、答え探しの時間だ。ふたたび集中学習モードに入り、読む目的や質問に従って、興味が惹かれた箇所を開こう。
a. と b. は〈活性化〉で必ず行うステップだが、c. ~ e. では自由に選択して行うことができる。
スーパーリーディング ( c. ) は、各ページの中央に視点を定めて、意味のある言葉を探しながら、最初の行から最後の行まで素早く視点を動かす。そしてディッピング ( d. ) は、気になった個所の周辺の一文もしくは二文をさっと読む。日本語に訳すなら「ななめ読み」とか「拾い読み」と言われる手法だろう。
マインドマップ ( e. ) は、スーパーリーディングやディッピングで得た情報をまとめるのに便利だ。マインドマップは、それ自身が一つの技術体系をなしているので(といっても気軽に、楽しく取り組める学習法であるが)ここでは詳しい方法は割愛しよう。参考文献としてはトニー・ブザン著『マインドマップ 最強の教科書』(小学館集英社プロダクション)を挙げておく。
高速リーディング ( f. ) は自由にスピードを調整して一気に読む方法だ。いわゆる普通の読み方と似ているかもしれないが、もうすでに知っている個所は素早く読み、立ち止まりたいところではゆっくり読むなど、自由にスピードを変えてリズミカルに読み通していく。
読書のための道具箱
駆け足で説明を進めてきて、読者の中にはげんなりとしている人もいるかもしれない。しかし、読書のコツを思い出してほしい。理解の層を重ねる。一度で完璧にこの記事を読もうとしないでほしい。今まで説明した理解の層は、それぞれ単独で使っても効果の上がる方法だし、そもそも、目的を達成すれば、その時点で読むことをやめればいいのだ。
ひとつずつ順番にステップを踏んでいくシステムのように見えますが、実は、あなたのニーズに合わせて使うことができます。このシステムは、読書のエキスパートたちが、実際に使っているテクニックをベースにして作られています。文書を読む上で効果的に働くさまざまなテクニックが集積されたシステムなので、いわば読書のための道具箱といってもよいでしょう。
『新版 あなたもいままでの10倍速く本が読める』p. 38
ここで提案したことは一つ一つが有意義な読書のコツだ。そのコツを試してみて満足がいけばそれでいい。とにもかくにも、まずは肩の力を抜くことだ。呼吸を整えて、リラックスして読書を楽しもう。
読書という他者との対話を通して世界を押し広げていく。情報を吸収していく。その過程が内なる天才性を発揮する契機になるのだ。
机上から実地へ
しかし、本を読んで情報をインプットするだけでは天才性を十二分に発揮することはできない。論語読みの論語知らずは天才ではない。自らのアイデアと体を実地にもっていくことによってはじめて天才性は立ち現れる。
では机上ではない、実際の問題はどう解決していけばいいのだろうか。
どうやって問題を解決すればいいのか?
人はさまざまな問題に直面するが、その多くは、対人関係の問題だ。いや、対人関係がすべてだといっても言い過ぎではないのかもしれない。それは個人心理学を提唱したアドラーが言ったことでもある。
「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」。これはアドラー心理学の根底に流れる概念です。もし、この世界から対人関係がなくなってしまえば、それこそ宇宙のなかにただひとりで、他者がいなくなってしまえば、あらゆる悩みも消え去ってしまうでしょう。
『嫌われる勇気』p. 62
もちろん手放しでこの考えを受け入れるわけではない。怪我による痛みとか、病気による苦しみとかは悩みと呼ばれうるが、さすがに対人関係の悩みとはいえないではないか、そう思う節もある。ただ、人が何かに悩むとき、その悩みには往々にして他者の存在があるというのは一顧に値するのではないか。
というのも、筆者はあるとき、あることで悩んでいたのだ。その問題は、EDだ。
まあ、なんともこんな堂々と話すことではないのかもしれない。しかし、あれだ。男の大切なところが、大切な時に役に立たないという悩みであり、問題である。
今だから笑って話せるが、当時は真剣に悩んでいた。申し訳ないというか、情けないというか、いろいろな気持ちでごちゃまぜになっていた。どこか適当なところに通院したほうがいいのではないかとも思ったのだ。この問題は私の肉体の問題でもあり、精神の問題でもあり、あるいは、コミュニケーションの問題でもあった。はたまた、その複合的な要因だったかもしれない。
ただ、偶然そのときにナチュラル・ブリリアンス・モデルを知った。物は試しだ。やってみよう。
そうすると、不思議で、本当に治ってしまったのだ。
こんなにすんなり書くと、ナチュラル・ブリリアンス・モデルを勧めたいがために具体例をちょろまかしているのではないかと思われるかもしれないが、赤裸々な本当である。
ナチュラル・ブリリアンス・モデルでは「問題」をごくシンプルに、現状と求める結果との差として捉え、自らの内に埋没している天才性を引き出すことでその差を解消していく。この意味で、求めているものと現状とが違うといった種類の問題であればあらゆる事例で適用可能だ。少なくとも、私のデリケートな問題には大変役に立った。
そのナチュラル・ブリリアンス・モデルとは、いったいどのようなものだろうか。筆者が理解していることを共有してみよう。ちなみに「ナチュラル・ブリリアンス・モデル」と書くと長いので、以後、NBモデルと省略する。
「内に宿る神」
NBモデルとは何か。誤りを恐れずに私の解釈を述べれば、「内に宿る神」を引き出す理論、プロセスおよび態度である。
天才というのは神性だ。なんでも知っているし、なんでもできること、そして汲めども尽きないこと。そのような神性でもって問題を解決していく。この、天才性という、生まれながらの素晴らしさ(ナチュラル・ブリリアンス)を誰しもが持ち合わせている。
神ではなく仏ではあるが、悉有仏性悉皆成仏、と言う言葉もある。生きとし生けるものは皆ことごとく仏性をもっていて仏になることができると言う意味だ。
NBモデルも発想としては同じであると私は理解した。誰しもが神性、すなわち、天才性を有していて、誰でも天才になれると主張するのがNBモデルである。
では、どのようにしたら天才性を発揮できるのか。それは端的に言うと情熱(enthusiasm)である。
「内に宿る神」を意味するラテン語の【entheos】を語源とする【enthusiasm】(情熱)は、枯れることのない希望の泉です。素晴らしい未来は、ナチュラル・ブリリアンス・モデルのステップを1つ踏むごとに、確実に形を成していくのです。
『潜在能力でビジネスが加速する』p. 169
人は情熱、あるいは、熱中の状態に入ることで高いパフォーマンスを生み出し、自己変革を通して問題を解決していくのだ。
NBモデルの全ては開発者によって一枚のチャートにまとまっている。そのチャートはニュー・オプション・ジェネレータという名前だ。NBモデルの全容を知りたい読者はこのチャートを実践し、そして実践結果を振り返り、味わって欲しい。(下図は『潜在能力でビジネスが加速する』より引用)
しかし、あとはポール・シーリィの本を読んで各々実践してください、というのも味気ない。ここでは、実際にニュー・オプション・ジェネレータを実践した身として、NBモデルの解釈を語ってみたい。
MBモデルを語るためにまず言及したいのは、なぜあらゆる人は漏れなく天才性を持っているのに「天才」と言える人がたくさんはいないのか、ということだ。
行き詰まりからの脱却
なぜ誰もが天才性を持っているのにそれを発揮できていないのか。それは、否定と、それによる行き詰まりがあるからだ。だから、まずは否定・行き詰まりから脱しよう。否定は人を行き詰まらせる。禁止や否定的なメッセージ(これをストップサインという)は揺れを生み、揺れは行き詰まりを生む。
ストップサイン → 揺れ → 行き詰まり
人生の旅路には時折り巨大なストップサインが現れる。そして、求めるものもわかっていて、努力もしているのに手に入れられない状況に陥ってしまう。
他者の「良かれと思って」したアドバイスはしばしば、私たちの能力を制限する。他者によって突き出されたストップサインによって私たちはコンフォートゾーン、すなわち、自分の居心地のいい、チャレンジのない範囲の中で自分の行動を選ぶようになる。
否定のメッセージによる負のインパクトは、時に、それが過ぎてからもその人を支配し続ける。心理的に強烈な体験をした時、人は一種の催眠状態の中で、一生続く自己否定の宣告を受け入れてしまうのだ。
だから、まず行き詰まりから脱しよう。ストップサインを取り除こう。そう難しく構えることはない。ストップサインの除去は簡単だ。そのコツはリラクゼーションにある。心身ともにリラックスすること、それがストップサインを取り除くのだ。
では、リラクゼーションとは一体なんだろうか。手っ取り早くできるのは「深呼吸」だ。NBモデルのプロセスはこの深呼吸から始まる。
早速、NBモデルの各ステップを見てみよう。
フローと変革
NBモデルは、人がどのような時に有効な学習をし、天才性を発揮できるかということに関する理論を研究し、その理論に基づいて4つの具体的なステップを設定した。その4つとは;
- Release (解放)
- Notice (感知)
- Respond (反応)
- Witness (確認)
である。NBモデルは、「リラックスした集中状態」に入って、コンフォートゾーンの外に出ることを前提としている。「リラックスした集中状態」とは、いわゆる「フロー」と呼ばれる状態に近いのだろう。
フローに入るため、NBモデルの最初のステップ Release では深呼吸を行う。リラックスすると意識下の資源にアクセス可能となる。
さらに、心理的にもリラックスするために、心の中の矛盾を四分割表で解消していく。それはどういうことか。下図を見てほしい(『潜在意識でビジネスが加速する』から引用し、見やすいように例示の位置等を筆者が替えたもの)。
人は成功することを目指すとき、ネガティブな今からポジティブな未来への移行のみを考えがちだ。ダイエットでいうなら太っている今から痩せている未来への移行である。しかし、もう一つの移行をも考える必要がある。それは、今あるポジティブを未来では手放してしまうのではないかという恐怖である。やせている未来はほしい。しかしそれは、好きなものを食べられている今の状況を手放すことも意味する。
このとき人は矛盾する。「ダイエットはしたいが、ダイエットはしたくない」となるのである。
だからこそ、ポジティブな今を維持できるような方法を模索したり、未来に起きるかもしれないネガティブな出来事への対処を考えることで、矛盾は解消されていく。チャレンジするというのは時に怖いことである。その「怖い」という感情をすなおに受け入れて、見つめていくのだ。
最高のパフォーマンスを実現するプロセスは対立する思考や感情、矛盾する行動から自分を解放することにある。「X を望む自分がいる一方で同時に Y を望む自分がいる」状況を解きほぐしていくことがリラクゼーションにおいては大事だ。というのも、矛盾は(論理的にも)必ず否定されるし、否定は創造性を妨げるから。
深呼吸は体を、四分割表は心を、緊張から解放する。簡単にできることではあるが欠かせない重要なステップだ。
つづくNotice は感覚を鋭くするステップだ。身体を健康に保ち、フォトリーディングを含む様々なエクササイズを試して感覚を鋭くしよう。感覚を鋭くするということは、それらの感覚に積極的に注意を促し、敏感に気づくことだ。内なる感覚に関心を向けよう。
Release と Notice の二つのステップを踏んだなら「リラックスした集中状態」に入ることができる。学習に最適なこの状態を保って、次はRespond しよう。Respond は「私が欲しいものは何か?」という問い、目的意識に実践で応えていくステップだ。平たく言えば
Just do it !
である。このステップは自己変革に繋がり、否定や行き詰まりを脱する決定打になる。
人生は人に変化を要求する。Repond は実践と経験によってこの変化に対応していく。例えば、フォトリーディングという風変わりな読書法は世界を一変させるゲームであり、パラダイムシフトになるだろう。この技法に関わらず、新しい世界や方法に楽しみながら飛び込んでいく。それが変革を起こしていくのである。
ポジティブ・ニュートラリティ
Respond の過程で実践に踏み込めば必ず何らかの結果を得る。その結果は嬉しいことから悲しいこと、痛いことまで色々あるだろう。しかし、どんなことであっても失敗はない。どんな結果あるいは変化であれ、ゴールに近づいたか、遠ざかったかがあるだけだ。
いわゆる「失敗」と言われているものも、それはフィードバックだと思えば全てが学びになる。意義がある。
まずは起きたことを事実としてそのまま受け取り、その上で、事実を取り巻く状況を統合的に観察し、どんなに小さくても何か前進があればそれを記録する。このステップは Witness と定義され、この時の視点はポジティブ・ニュートラリティ(筆者独自略: +N)と言う。+N は才能を育む。自らを突き放して、客観すれば全ての経験は学びとなり、メッセージとなる。
+N の立場に立てば、失敗なんてない。ただフィードバックがあるだけだ。人生全体を +N から眺めよう。人生には影も黒歴史もある。しかしどんな経験も Witness すると、恐怖心とそれが生み出す不健全なストラテジーに向き合い、これを克服することができる。全体感の中で核心を理解している時、「今日の失敗は大した問題じゃない」と胸を張れる。どんな結果にも意義があると思えた時、私たちは大きな安心感の中で学習することができるようになるのだ。
人生から学ぼう。大切なのは、肯定的な姿勢だ。否定は天才性を妨げ、肯定は天才性を促す。肝心なのは自他の才能を信じることだ。もし読者が教育者なら、学習者に潜在している才能を信頼しよう。
+N の立場に立ってフィードバックを得たなら、また Release に戻って、熱中しながら前進していく。ここでプロセスは円環を結び、過程は永遠のものになる。実践とフィードバックは「内に宿る神」を、個々の天才性を引き出し続けるのだ。
NBモデルを積み重ねてきたもの
このように「内なる天才性を引き出す」と言う大風呂敷を広げているNBモデルは、その根拠として、神経言語プログラミングや加速学習、前意識処理といった人間開発テクノロジーの積み重ねの上に成り立っている。ある成功者が「俺はこうやった。同じようにやればいい」と勧めるものではなく、学習理論の一つのハイライトとしてポール・シーリィ博士によって開発された。(面白いことに、「俺みたいにやれ」といった成功者の主張がNB理論に則っていると思えることがしばしばある。)
人間の学習理論は興味深いものが多いが、その中でも一つ挙げるとすれば、脳はゴールゲッターである、と言うことだ。
ゴールゲッターとしての脳
問題にではなく結果に注目すれば、学習は容易になります。常に結果に目を向けていると、何よりも優れたゴールゲッターである脳は、欲しくないものをつくり出すのをやめ、本当に求めているものを実現することにだけ集中するようになります。
『潜在能力でビジネスが加速する』p. 84
避けたいものを見るのではなく、ゴールに向かおうと、ポール・シーリィは助言する。脳は強力なゴールゲッターだ。明確な目標を定めれば、それを達成するチャンスもスピードも格段に上がる。そう言えば、NBモデルの第3ステップの Respond は「私が欲しいものは何か」の答えを出していくことだった。
求めよ、さらば与えられん。「私が欲しいものは何か」具体的に書き出してみよう。明確なゴールを持ち、リラックスした集中状態になることで意識下の天才性にアクセスすることができる。
ゴールを設定したなら「私にはできる」と固く信じるのが大切であると博士は強調する。「私はできる」、自分の可能性を信じるこの言葉が人をよりハイレベルなパフォーマンスへと引き上げるのだ。
“私”を引き上げて
ポール・シーリィの開発したNBモデルは、「内に宿る神」を引き出す、読書や問題解決において革新的な方法論を展開した。この理論技術が引き出すのは、もっとできるはずだという、内に眠る、ポテンシャルに満ち溢れた “私” なのだろう。
もちろん、人生では色々なことがある。愉快なことばかりではない。しかし、その時に「失敗などない」と思えるだけで力が湧く。その力は天才性を引き上げるのに役立つ。めそめそ落ち込んでばかりではいけない。もしかしたら、どんな失敗もティラミスにつながる発明になるかもしれないと、ワクワクしていたい。
思えばティラミスの語源は、イタリア語の ‘ Tira mi su ! ’であって、「私を引き上げて!」という意味らしい。引き上げるコツはそれほど難しいことではない。間違ったと思って入れた材料も味見してみよう。その味わいから天才性が引き上げられるかもしれないのだから。