神田昌典は〈うねり〉である

アプリとしての「神田昌典」

「神田さんが二人いればいいのになあ」そう思ったのだ。これからの世界を生きるにあたってアドバイスがほしい。神田さんの都合は関係なく、僕の都合でいつでも「神田昌典」を召喚できればいいのに、というSFチックな、あるいは、魔術みたいな・・・とにかく、そんな現実離れしたことを考えていたのだ。

しかし、もしやするとできるのではないか、とふと思ったのである。ジーニアスコードはそもそもそういう発想だ。アインシュタインファクターだって、心の中にアインシュタイン的なアプリをインストールしようとする試みだろう。そもそも、スター戦略法も、成功者の勘をシステマチックに構成しなおしたものだ。できないことはないのかもしれない。僕は「神田昌典」をインストールしよう。

そのためには、神田昌典ファクターをまずハックしなければいけない。ソースならある。四半世紀にわたって神田さんが届け続けてきた熱いメッセージが、たくさんある。

そこで僕は、神田昌典の完全な理解と定式化を試みた。結果、6このキーワードと1つの約言を得た。

神田昌典とはいったい何者か。それは、うねり、である。これが、僕の得た約言。しかし、それは、どういうことか。

これから6このキーワードとともに共有しよう。まずは、「0. 科学」である。

0. 科学

1番目にというより、そもそもの前提であるから0番とした。「神田昌典」らしさは測定にあり、テストにある。つまり、神田さんの基本的姿勢は科学的態度である、と僕は考える。

というのも、神田さんに大きな影響を与えたのがダイレクト・マーケティングだからだ。マーケッター神田昌典がマーケティングを語るとき、その内容は必ずダイレクト・マーケティングになる。もちろん、一般的にはマーケティングにはいろいろな種類があるのだろう。しかし、「友達に教える」ことができるような、信頼できる、実際に有効なマーケティングということになると、マーケティングとダイレクトマーケティングはイコールになるのだ。

ダイレクトマーケティングを成す重要な要素として「測定」があげられる。それは定義からして明らかだ。

「ダイレクト・マーケティング」とは広告媒体の双方向活用で、相手になんらかの(迅速な)行動修正を促そうとすることであり、そうした行動を追跡・記録・分析し、あとで検索して活用できるようにデータベースに蓄積可能なやり方で行われるもの。

『ザ・マーケティング【基本編】ー激変する環境で通用する唯一の教科書』p. 42

定義の中で「行動を追跡・記録・分析し」とあるように、こちらから起こしたアクションとその反応を測定することがダイレクトマーケティングの要素となっており、もっといえば、それが基本原理となっている。

ダイレクトマーケティングの基本原理
どんなダイレクトマーケティング計画でも、その基本目的は、すぐに、あるいは最終的に利益につながる測定可能なレスポンスを得ることにある。

『ザ・マーケティング【基本編】ー激変する環境で通用する唯一の教科書』p. 43

この計測っていうのが、マーケティングの第一歩なんです。そもそも計測できないところで、集客効率を上げましょうっていったって無理じゃないですか

『あなたの会社が90日で儲かる!感情マーケティングでお客をつかむ』p. 180

「すぐに、あるいは最終的に利益につながる測定可能なレスポンス」の件数を最大化するためにはどうしたらいいのか。まずは測定である。最大化しようとしている数字はまず測定されなければならないのだ。

ここで、最大化しようとしている数字というのがどのようなものであるのかを明らかにしておく必要があるだろう。その数字は、顧客生涯価値である。顧客生涯価値は英語の略称でLTVと表記される。

[生涯価値(LTV)(長期的価値とも)]・・・ある顧客との関係が継続している全期間の取引価値の総額。

『ザ・マーケティング【基本編】ー激変する環境で通用する唯一の教科書』p. 48

ダイレクトマーケティングの究極目的はLTVを最大化することである。正確に言うと、顧客を獲得するのには顧客獲得コスト(CPA)が発生するから、それを差し引いた数字、純LTV = LTV-CPA を最大化することがビジネスの醍醐味であるといえる。

数字のゲームの基本条件は、次の公式である。この公式が当てはまらない限り、ビジネスをしてはならない。何年がんばっても、決して儲けが出ないからである。
第一の基本条件:顧客の生涯価値 ≧ 顧客獲得コスト

『60分間・企業ダントツ化プロジェクト ー顧客勘定をベースにした戦略構築法』p210

さて資金が潤沢な企業は、先ほどの公式を確認するだけでいい。しかし銀行が貸し渋りをしている現在の環境下では・・・(中略)・・・さらに厳格な数字のゲームが求められることになる。それを公式化すると・・・
第二の基本条件:短期間(できれば三カ月以内)にもたらされる顧客価値 ≧ 顧客獲得コスト

『60分間・企業ダントツ化プロジェクト ー顧客感情をベースにした戦略構築法』p212

この純LTVを最大化するためのプロセスとして、顧客教育というものが必要になってくるが、それは本ページの「5. 教育」で述べるとしよう。ここでは、測定と、その測定結果が蓄積されたデータベースが顧客教育に役立つことを押さえておけばいい。

これまで述べてきたように、ビジネスは顧客の反応に関する科学であり、また、純LTVを最大化していくゲームでもある。科学、ゲームは楽しい雰囲気に満ち溢れている。科学とは仮説とテストの繰り返しであり、平たく言えば「とりあえずやってみようよ!」「確かめてみよう!」の精神である。いわば、実践の精神だ。

実践は、瞑想より100倍かっこいい!

『もっと あなたの会社が90日で儲かる! 感情マーケティングでお客をトリコにする』p. 198

「神田昌典」をインストールするには基本的姿勢として、この科学的態度を持たなければいけない、ということになる。常に若々しく、「試してみよう」の精神で進んでいこう。

科学的態度を前提として持ったならば次に考えるべきはコミュニケーションである。それは、ダイレクトマーケティングの定義の中に「広告媒体の双方向活用」があり、これがまさにコミュニケーションを指しているからであり、また、良いコミュニケーションこそが「稼ぐ現実」を作るからである。

1. コミュニケーション

「広告媒体の双方向活用」がダイレクトマーケティングの定義を成している要素だと述べた。つまりは顧客とのコミュニケーションをどのようにとっていくかということだ。そこで、広告にどのようなメッセージを載せるのがいいのか、すなわちコピーライティングへと論点は移行していく。

コピーライティングとは、一般的には、商品・サービスを魅力的に伝える文章術といわれている。しかし、この分野に、四半世紀(25年)にわたって取り組んできた私の実感からすれば、もっと根源的なものである。この技術を、一文に凝縮して説明するなら、「焼け野原に立たされたとしても、翌日には紙とペンだけで稼ぎ始める力」である。

『コピーライティング技術大全 百年売れ続ける言葉の原則』p.2

神田さんにここまで言わしめるコピーライティングとはいったい何だろうか。コピーなんて、ただの言葉ではないか。しかし、その言葉こそ、稼ぎにつながるものなのだ。なぜなら、稼ぐことは売ることであり、売ることは集客であり、集客とはコミュニケーションであるからだ。

客が来なけりゃ、会社は潰れる。いかなるビジネスも、継続的に新規顧客を集めないと潰れる。この原則は、屋台のラーメン屋でも、トヨタやソニーでも変わらない。

『もっと あなたの会社が90日で儲かる! 感情マーケティングでお客をトリコにする』p. 48

集客して、購買してもらうこと、つまりお客さんから「すぐに、あるいは最終的に利益につながる測定可能なレスポンス」を得るが売上になるのだ。そういったレスポンスを得て「稼ぐ現実」を創造していくのはコミュニケーションであり、言葉なのだ。

私は、今まで2万人を超える経営者、起業家を育ててきた経験から断言するが、「売る力」は、人間誰しもが持った、自然な力である。その本質は、出会った相手の中に才能を見出し、自分が提供できる価値とつないでいくコミュニケーション能力にあり、それは言葉の使い方で決まる。

『稼ぐ言葉の法則 ー「新・PASONAの法則」と売れる公式41』p.7

では、売上につながるレスポンスを得るためのコミュニケーションは、いったいどのようなものなのだろうか。何が良いコミュニケーションを促進するのだろうか。その実態、内訳は、次の4要素で成っている。

『ザ・マーケティング【基本編】ー激変する環境で通用する唯一の教科書』p. 44を参照

ビジネスはお客がいれば成り立つ、これは神田さんが一貫して伝え続けてきたメッセージだ。江戸の商人たちの、火事があったときに顧客名簿を川に投げ出す話も印象的だ。名簿がそれほど重要な意味をもつことは、レスポンスを促進する要素が 40%と一番大きいウェイトを占めることからも分かる。

ちなみにオファーの定義は、次のようなものだ。

オファーは「ある特定の商品/サービスを売り込む際の条件、つまり、その取引の約束事」

『ザ・マーケティング【基本編】ー激変する環境で通用する唯一の教科書』p. 165

オファーの定義を見ると、オファーは概念として価格を包含するだろう。また、取引を構成するものとして当然、商品/サービスの品質をも包含すると考えていい。

このように、コミュニケーションを促進する要素が名簿/媒体、オファー、コピー、タイミングの4つであるということは、神田さんがずっと考えてきたことだといえる。

というのもスター戦略法でビジネスモデルを多角的に考えるにせよ、5つの質問によってコピーで何を言うのか考えるにせよ、口コミを発生させるよう仕掛けるにせよ、その思考は結局、4つの促進要素のどれかのことを考えていることと同じだからだ。

ビジネスモデル構築、コピーライティング、口コミを考えるキーワード

また、ジョン・ケープルズのコピーライティングの「3W」もやはり同じことを考えている。
注:()は筆者がつけたもの

  1. Where どこに広告するか (名簿/媒体)
  2. When いつ広告するか (タイミング)
  3. What 何を広告で言うか (オファー、コピー)

コミュニケーションの内訳は名簿/媒体、オファー、コピー、タイミングであることが分かった。では、この4つのコミュニケーション促進要素を、いったい何にめがけて調整していけば、ビジネスはうまくいくのだろうか。その目的、極意ともいえるものを神田さんは一言でまとめている。それはPMMである。

2. PMM

どうしたらコミュニケーションが成功するか。それは、相手の気持ちと自分の気持ちがぴったりと合っていることである。ビジネスの文脈で言えば、相手の買いたい気持ちと自分の売りたい気持ちがマッチしているときに、取引が成功する。

しかし、買い手にとって「お金を払う」というのはそれなりに抵抗感を抱くものだ。それに、買い手の関心事は必ずしも、自分の商品/サービスに向けられているわけではない。むしろ、関心がないことが普通であり、自分が提供するものを買わなくてもお客さんの生活は続いていくし、また、ほかの売り手から買うという選択肢もあるわけだ。

このように、自分のことではなく、もっと他のことで忙しいお客さんに注意・関心・興味を持ってもらい、購買というレスポンスをもたらすにはどのようにすればいいのか。

それは、相手に「どうしてもその商品が欲しい!」「これを買わなきゃ損する!」と思ってもらうことである。そう思ってもらうためには、相手に共感し、相手を魅了しなければならない。

まずは共感を示すことである。お客は「自分のことを分かってくれている」と思う相手にしか胸襟を開かない。共感を示すにはどうすればよいか。それは、お客の「裏の感情」を理解することである。

共感というのは、表の欲求から起こるのではなく、裏の欲求から起こる。表の欲求は、建前。裏の欲求は本音。表の欲求は、目で見て分かるもの。裏の欲求は、想像して分かるもの。表の欲求は、誰でも分かる。裏の欲求は、共感して分かるものである。

『口コミ伝染病 お客がお客を連れてくる実践プログラム』p.122

相手の欲求、ニーズとウォンツをつかむために、神田さんはマトリクスを使用する。ニーズ・ウォンツ分析法といわれるものだが、この分析法は、スター戦略法では「商品」「顧客」「メッセージ」で計3回使用するほど中心的な分析である。また、お客さんの気持ち、購買心理に寄り添ったビジネスモデル構築は、「90日で儲かる」シリーズで「自動顧客管理システム」、階段式の設計図づくりで述べられていることでもある。それほどまでに、相手の本音、本当の気持ちに寄り添うことが大切なのだ。逆にいえば、相手に共感を示せないビジネスや販促は、相手の興味関心を引けないので成功しない。

しかし、見落とされがちかもしれないが、建前はどうでもいい、ということではない。相手の感情に訴えかけるだけではなく、理性でも説得することが必要だ。

もちろん、相手の理性には何が何でも訴えなければならない。なぜそれを買ったのか、友人に話すことで自分の気持ちが収まるような、筋の通った口実を相手に与えればいい。ただし、ものを売り込もうと思うなら、なんらかの行動を起こしてもらいたいなら、根本的な感情にしっかりと働きかけること!

『伝説のコピーライティング実践バイブル ー史上最も売れる言葉を生み出した男の成功事例269』p.57

要するに、相手は 感情→理性 という順番で購買を決定するということであり、感情の審査にクリアしないと理性的に考えてもらえないということだ。

相手の購買心理に寄り添ったビジネスモデルを構築したなら次はコピーだ。しかし、コピーでもやはり重要なのは、相手の感情である。相手の感情・願望をこちらの提供に結び付け、こちらがしてもらいたいと思っている行動へと搔き立てることだ。

相手の感情と自分が提供するものとの結び付け、これを神田さんはProduct Market Matching と呼んでいる。コピーライティングとは要するに、PMMである。

このように、コピーライティングが目指すものを理解するのはそれほど難しことではなさそうだ。しかし、実践が簡単とは言ってはいない。本ページの「0. 科学」でも述べたことだが、分かった気になるのではなく、テストを繰り返すことだ。

ただ、先人たちの膨大なテストによって、すでに売れる型というのも明らかになっている。売れるコピーで重要なのは、何を差し置いても見出しであり、見出しには必ず訴求ポイント=購買理由を書かなければいけない。商品知識を整理し、コピードラフトを書き、ドラフトの中にセールスポイントを見つけ精製するなかでいい見出しはできてくる。先人の知恵を使いながら自分でもノウハウを蓄積していく、売れる見出しを生み出していく必要がある。

ここで、訴求ポイントという言葉が出てきたが、訴求ポイントの中で一番重要なのはベネフィット、相手の得になることだ。また、圧倒的なベネフィットということで言えば、感動できること、言い換えられるだろう。PMMは、共感し、魅了することで、相手が行動し、感動する一連のプロセスだ。感動するほどのベネフィットを提供できなければ、販売に成功したとしても顧客との関係は一時的なものになってしまう。

では、魅了され、行動したくなり、行動の結果感動してしまうほどのベネフィットが得られるような顧客のプロセスはいったいどのようなものだろうか。そのプロセスはどうしたら描けるだろうか。

その描き方は神田さんが教えてくれている。それは物語であり、フューチャーマッピングである。

3. 物語

PMMというアイデアは十分わかりやすいものであるが、さらにそれをわかりやすい形で的確に表現した、コピーライティングの至言がある。

「誰が 何をして どうなった」

コピーライティングは結局のところこれである。誰が(名簿/媒体)、何をして(オファー、タイミング)、どうなった(コピー)か。そのベネフィットと、そこに至るまでの物語が描ければいい。

「どうなった」かというのは、変化を問う質問である。満たされない現状と理想的な状況との比較、そのギャップはどうしたら埋まるのかということをバックキャストで考える契機になる。

「ギャップ」という言葉は、神田さんの著作に頻出するワードだ。

「まだ損をしていますか」ということであれば、現状の世界が否定される。だから「現状の世界」≠「広告によって表現される世界になる。そうやってバランスを崩すわけですね

『もっと あなたの会社が90日で儲かる! 感情マーケティングでお客をトリコにする』p. 150

理想と現実とのギャップに対して、怒りを持つことは自然なことであり、事業を生み出すうえでの、大きなエネルギーとなる。ポイントは、その怒りのエネルギーを、世界に向けてどのように表現していくかだ。

『新版 小予算で優良顧客をつかむ方法 ーマーケティング常識11のウソ』p.24

通常は雑念で埋まっている頭に期待と異なる情報が入ることで、口コミが引き起こされる。

『口コミ伝染病 お客がお客を連れてくる実践プログラム』p.64

効果的な広告表現でギャップを明確化することで気づきが生まれ、雑念に埋もれていた行動へのエネルギーが生まれる。その行動へのエネルギーは、ギャップを埋めるプロセスを見つけ出したとき、そのプロセスを提供する人を、その商品/サービスを選択するのである。

そのプロセスとはPASONAであり、ストーリーである。PASONAは、顧客が日常の中に問題を意識し、売り手のオファーを受けて新しい日常へと変容していくまでのプロセスであるから、ストーリーと全く一緒であるということがわかる。

キャンベルは、世界中のすべての神話を分析して、そこに共通するパターンを見出した。それは「日常の世界から、非日常へと旅立つ。その過程で宝を獲得し、再び日常の世界に帰ってくる」という形式だ

『ストーリー思考 ー「フューチャーマッピング」で隠れた才能が目覚める』p. 24

神田さんは膨大なマーケティング・プロモーション実績の中からこの方法を編み出した。つまり、うまくいくビジネスの背景には必ず、顧客がヒーローになる物語があることを洞察したのだ。

もともと本手法は、私がマーケターとして15年にわたり手掛けてきた数多くの販促企画・メッセージのうち、うまく売上が上がったものと、そうではなかったものとは何が違うのかーそのパターンを分析し、うまくいったメッセージを生み出した思考プロセスをチャートかしたものである。

『ストーリー思考 ー「フューチャーマッピング」で隠れた才能が目覚める』p. 24

たしかに、フューチャーマッピングの萌芽は神田さんの初期著作にもみられる。スター戦略法では20のチャートを書く中で何回もマトリクスを書き、いかにビジネスを「右上の世界」に位置付けるかを追求する。

結果思考で右上の世界を創造する

『60分間・企業ダントツ化プロジェクト ー顧客勘定をベースにした戦略構築法』p322

そのマトリクスに一本縦線を引いて、「はじめ・なか・おわり」の構成が現れた時にフューチャーマッピングは誕生した。この技術の具体的な方法は皆さんのほうが詳しいだろうと思うので割愛するが、ここでは、売り手が物語ることによって買い手の内に眠っていた生きるエネルギーが呼び起されて、購買へ向かうのだということを共通認識として理解していただきたい。この手法によって、売り手は「語り部」となったのだ。

物語の形式に沿うことで、売り上げが上がっていくのであれば、販売とは、決して「売り込み」ではなく、「語り部」の仕事であることがわかるだろう。

『稼ぐ言葉の法則 ー「新・PASONAの法則」と売れる公式41』p.88

フューチャーマッピングは売り込みから物語へのパラダイムシフトであり、神田さんのユニークな仕事だ。マインドマップやフォトリーディング、ダイレクトマーケティングなど、神田さんがアメリカから輸入して日本に普及させたメソッドの影響は強大なものだった。しかし、このフューチャーマッピングは、真に日本人の中から生まれたツールである。

日本人が生み出したツールだから、ということでもないが、物語は人々の紐帯となって世界を揺り動かしていく。専門家同士の横断的な協力を促し、また、売り手と買い手の結びつきを強固なものにするからである。いうまでもなく、フューチャーマッピングは利他の、鏡合わせの世界であり、統合へとむかうツールである。

フューチャーマッピングを描くたびに生まれる利他のストーリーによって、個人と個人の夢がつながり、新しいプロジェクトが生まれ、新しい組織がはじまり、そして継続的な活動となっていく。

『ストーリー施行 ー「フューチャーマッピング」で隠れた才能が目覚める』p. 241

ストーリーによって人々は連動し、新しい現実をつくりつつある。そのムーブメントがどこに向かっていくのかといえば、それは理想的な未来である。理想と未来を語るとき、人は教育という営みに目を向けざるを得ない。

4. 教育

物語を内包したコピーによって集客する。ここまで手順を抜かしていないなら、メッセージとビジネスモデルは矛盾していないはずだから、商品の提供が行われ、顧客は実際に、新しい日常への冒険をはじめたことになる。有効なコピーは磁石のように集客していくだろう。

本書が刊行された1930年代にコリアー氏がまとめた文章の本質を見つめれば、それは目的の実現に向けて必要なサポーターを集めるための「呼びかけの作法」であることがわかる。

『伝説のコピーライティング実践バイブル ー史上最も売れる言葉を生み出した男の成功事例269』p.3

もはやビジネスは売り手と買い手ではなく、理想の実現に向けたファン、サポーター、友達の関係になっていく。思えば「友達に手紙を書くようにセールスレターを書く」ということもコピーライティングのコツであった。

しかし、集めるだけで満足してはいけない。集めた顧客が流出しないように、ロイヤルティを高め、カリキュラムを組まなければいけないのだ。顧客は育成してファンにすること。ここで「0. 科学」で構築したデータベースや、PMMを考えるときに設計した「自動顧客管理システム」が力を発揮する。顧客のライフサイクルに合わせて、LTVを上げていくのだ。

【9割の人が知らない】《日本一のマーケター》が語る「顧客を育成する」という考え方(ダイアモンドオンライン記事から引用)

パレートの法則「全体の成果の8割は、全体を構成する要素のうちの2割の要素が生み出している」ことを考慮すれば、いかに優良顧客を生み出していくかということがビジネスの要になる。

ここで、今までの話を踏まえて、ビジネスとは何かということについてまとめておこう。神田さんの著作でも直接的に言及があったことだが、ビジネスとは次のプロセスを継続して行っていくことだ。

  1. 広告 ( お客さん → 見込客 )
  2. 成約 ( 見込客  → 浮遊顧客 )
  3. 教育 ( 浮遊顧客 → 固定顧客~ )

「4. 物語」で創出されたストーリーは商品/サービスというカプセルに閉じ込められ、広く世界に届いていき、顧客が新しい日常を作っていくその過程で、その成果が金銭的価値にも表現されていく。売り手と買い手が生み出した波が市場を飲み込み、シェアの形で反映され、うねりとなって、新しい市場を形成していくことになる。このように見ていくと、ビジネスは市場をダイナミックに作り替えていくプロセスであるといことが言えそうだ。ビジネスが成功した結果、市場はどのような変化していくのだろうか。時々刻々と動いていく市場を、マーケットを観察するということは、マーケティングを考えるといことになる。

5. マーケティング

神田さんの著作の中に出てくる言葉で好きな言葉がある。「波乗り」だ。

「未来からの波が、あなたを課題達成へと推し進めてくれる」

『ストーリー施行 ー「フューチャーマッピング」で隠れた才能が目覚める』p.6

次から次に成長カーブを乗り換えて、事業を成長させるというアプローチは、あたかも波乗りサーフィンをしているようだ。

『60分間・企業ダントツ化プロジェクト ー顧客勘定をベースにした戦略構築法』p.80

コミュニケーションを促進させる4要素の中の一つ、タイミングだ。タイミングがいいと天使になり、悪いと害虫になる。商品も顧客も、上りのエスカレーターに乗ると楽だが、下りに乗ってしまうと大変だ。

市場に参入する前は、この波を見分けるのが大切だった。しかし、参入をして自らが市場に働きかけていくと、つまりは、名簿/媒体からどのセグメントで、どのターゲットで進むかを選択し、そのあとはビジネス、つまりは広告→成約→教育を繰り返していくと、今度は参入した自分自身が波となっている。その波が社会的に大きなムーブメントを伴えば、それは うねり となる。

戦略とは、順番、一貫性、予測、パラダイムシフトであるとスター戦略法には定義されている。ビジネスは順番を決め、一貫性をもったとき大きなエネルギーになる。波の予測を誤らず進めば、結果として市場の再創造という形でパラダイムシフトを起こすのだ。

しかし、自分が市場の再創造を果たした時、その市場がそのまま続くわけではない。自分が起こしたうねりに乗っかって、ほかの誰かが今ある市場を波乗りして、再創造するだろう。そこで、また「1. コミュニケーション」に戻っていく。あとは、既述したとおりである。

うねろ!うねりを起こせ!

神田昌典は、うねりである。ムーブメントだ。周りを巻き込んで市場を再創造する。

しかし、こうしてキーワードを眺めてみると、マーケティングというのはとんでもないものだった。なぜなら、マーケティングとは、科学であり、コミュニケーションであり、商売(PMM)であり、文学(物語)であり、教育であり、結果としてイノベーションである、ということになる。

こんな、人間にとって重要な営みのほとんど全てであるようなマーケティングとはいったいなんなのだろう。何物でもある、ということは、何物でもない、ということなのだろうか。

そこで僕は気づいた。きっとマーケティングというのは「生きる」ということだったのだ。分類好きな人類がいろいろなことを細かくちりぢりにして、重箱の隅をつつくように深く深く入り込んでしまう以前の営み、それがマーケティングなのかもしれない。

イノベーションが起きて新しくなっても、それはその瞬間から古くなっていく。今日のイノベーションは明日の日常になる。だから、一回きりというわけにはいかないのだ。マーケティングとは継続である。なぜなら、生きるということなのだから。昨日の朝食べたから今日の朝はいらない、ということはない。今日もお腹がすく。マーケッターはこれからもキッチンに立ち続けて、自然の材料からクリエイトして、自分とだれかのお腹と心を満たしていくにちがいない。

僕は、こうして「神田昌典」をインストールした。僕は寝ても覚めても「神田昌典」的な感受性で世界のことがらを初々しく受け取っていくにちがいない。そして、意識的に助けがほしいときも、きっとこんな言葉をつぶやいて彼を召喚するのだ。

うねろ!うねりを起こせ!

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