2024年1月14日放送のサザエさんのお話。
お父さんやおじいちゃんがヒゲを剃っているのを見てタラちゃんが「僕もヒゲを剃りたいです」と言った。
「タラちゃんはヒゲがないでしょう、剃らなくてもいいのよ」
とサザエは言った。
それでも、どうしてもヒゲが剃りたいタラちゃん。その様子を見ていたマスオさんは、あるアイデアが閃いた。
「タラちゃん、これで一緒にヒゲを剃ろうか」
そう言って持ってきたのがスプーンだった。
タラちゃんは頬に石鹸を付けて、それからスプーンでヒゲを剃った。
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私は現在、放課後デイサービスで児童指導員として働いている。通所してくる子どもたちは皆んな、その保護者がなんらかの育てる悩みを抱いている、そんな子たちである。
子どもたちは、大人の勝手な期待とは全然違う動きをする。「大人の勝手な期待」は往々にして大人の「わがまま」なのだが、それは、子どもたちの未来を案ずることから生じる自然な心情でもある。
「私が死んでもこの子は生きていけるかしら」
この言葉はとある、発達障害があるお子さんの母親の言葉だ。
ある種、煩悩ではあるのだろう。
しかし、是非とも寄り添いたい煩悩である。
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大人の常識と子どもの思いがすれ違うのがこの仕事の常である。そんな毎日の中で、お互いの関係性を築いていくのは、マスオさんが持ってきたスプーンなのではないだろうか。
タラちゃんはヒゲが剃りたかった。大人たちの真似がしたかったのだ。
しかし、大人たちは危ないから髭剃りは渡さなかった。それはそれで大人としての良識だ。
この二つの思いを見事に昇華したのがマスオさんだと思っている。子どもの思いと大人の心配と、両方を叶えた。
同じことが、大人のわがままを超える術なのかもしれない。
「この状況において〈スプーン〉は何だろうな」
そんな問いかけをしていきたい。
そしてもし、タラちゃん自身がそんなアイデアを自分から発してくれるように成長したらいいなあと思う。