先生、ビジネススマイルは止めてください

と言われたことがある。

私は大学卒業後に中学校の教員になった。仕事がさばききれなくて鬱になったこともある。

そんなとき、

「幸せだから笑顔になるんじゃなくて、笑顔になるから幸せなんだ」

ということをどこかの本で読んだのだ(その手の本を読んでいたあたり、そのときの私の落ち込み具合を察していただきたい)。

これは一面本当だと、今でも思う。生理機能は心の持ちように影響を与える。胸を張りながら落ち込むことは難しい。

だから、毎朝洗面台で笑顔をつくって出勤し、日中も、できるだけ口角を上げて働いていた。

そのときだ。

「先生、ビジネススマイルは止めたほうがいいですよ」

えっ・・・・

呆然とした。こんなに事も無げに、自分の仮面をはぎ取られるものかと、驚いた。

本当のことが分かっている人に嘘をつき続けていたような、そんなバツの悪さに内心悶えた。

しかし、それと同時に「なんだ、そのままでいいんだ」とも思えたのだ。そのままでいい、というより、そのままがいいらしい。

それから私は、あえて笑顔をつくるということをしなくなった。すると不思議なもので、笑いたいときに結構大きく笑える。その笑顔の方がやっぱり自然だ。

これは私のケースで言えることで、あるいは、ほかの人にとっては笑顔が幸せにつながる人が多いのかもしれない。それに、これは練習とか習慣の話で、デリカシーのない生徒の言葉を気にせず笑顔の練習をし続ければ、嘘が本当になって、明るく朗らかな人間が出来上がっていたのかもしれない。

しかし、私は私でいいのではないかな、と思う。

ショッキングなことを言ってくれたあの時の生徒に、たくさんのありがとうを。

そして、あなたがどちらのタイプなのかはわからないけれど、もしこの文章を読んでハッと思い当たる節があるのなら、肩に背負った重荷を降ろしてみては?

そのビジネススマイル、止めたほうがいいですよ。

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