大人は口論をしたら負け~人は「顔」の動物である~

以下は「ひつじのラジオ」の7月18日放送分の原稿です。ラジオにも遊びに来てください!

ひつじのラジオ(7月18日)

デール・カーネギー『人を動かす』

今回読み解いていく本はデール・カーネギーの『人を動かす』です。

この本は1937年に発売されて以来1500万部以上売れているベストセラーだそうです。著者のデール・カーネギーについて、デールカーネギートレーニング西日本のサイトのホームページを読み上げてみますね。

「デールカーネギートレーニング」は「話し方教室」としてニューヨークで1912年に開校して以来、多くの卒業生を全世界に送り出してきました。その数は全世界で1000万人以上、今もなお世界的企業や、人生をより良くしたい個人まで幅広い層に親しまれ、学ばれているグローバルトレーニングです。日本でもNTT、トヨタ、資生堂といった世界的企業の研修に取り入れられており、その技術はビジネスの場から、個人的なやりとりに至るまで、強力な武器となるポジティブな人間関係を構築する技術として、デールカーネギートレーニングは実践的に使われています。

と書いてありました。Googleも取り入れた実績のあるトレーニングということで評判だそうです。

と、ここまでデール・カーネギーであったり、その著書の『人を動かす』を持ち上げましたが、別に、僕は回し者ではないので、この本を紹介したところで一円も入りません。それだけご了承ください。

僕がこの本を読もうと思ったのは、人からの勧めなんですよね。僕は基本的におすすめされた本はできる限り読むようにしていて、その中の一冊なのですが、まあ、言ってしまえば、アメリカから輸入された自己啓発の一つで、そういった自己啓発系のステレオタイプなものではあります。そもそも、「自己啓発」というジャンルを読んでいる時点で、なんだか、「ああ人生うまくいっていないのかな」なんて思われてしまうかもしれません。

ただ、僕としてはそういう自己啓発をやってみて、熱が冷めたらまた別の自己啓発にすがってみたりというのも、よくある人生の在り方なのかなと思ったりしています。とにかく、不器用だけれども力強く生きたいという一つの生き方が自己啓発の本を読むということではないかなと。三日坊主でも三日は続いたわけで、その頑張りとか方向性を互いに応援できたらなあと思います。別に、この本を勧めてくれた人をディスっているわけではありません。自愛を込めて、ですね。

自己の重要感

前置きというか断り書きはこれぐらいにしておいて、本の中身に入りましょう。この『人を動かす』という本は創元社の第一版だと「人を動かす三原則」、「人に好かれる六原則」、「人を説得する十二原則」、「人を変える九原則」そして「幸福な家庭をつくる七原則」の、合計37原則が登場してきます。

「え~、37個も覚えれてられないよ」

という方。完全同意です。僕も37個の原則というのを覚えて実践する自信はなかったので、この本を読みこんで、一番大切な大原則を探り当てました。というのも、これさえ押さえておけば後の原則はそれから引き出せるという、扇の要はどこかなと思ったわけですね。

もったいぶらずに言ってみます。この37原則を束ねる大原則、それは、「人を動かす三原則」の中の二番目「重要感をもたせる」です。この「重要感」というのは馴染みのない言葉だと思います。言葉の雰囲気からして内容は推測できるとは思いますが、しっかりと共通イメージを持てるように定義を確認しましょう。

「人を動かす三原則」の中では、心理学者のジグムント・フロイトと哲学者のジョン・デューイの考えが引用されています。それぞれ、人間のあらゆる行動の動機、つまり、モチベーションは何なのか、ということに関する言及です。まず、フロイトはこう言ったようです。

「人間のあらゆる行動は、二つの動機から発するーすなわち、性の衝動と、偉くなりたいという願望とがこれである」

なんだか、身も蓋もないといった感じですよね。でも、「確かに」と、ある程度の納得感がある言葉です。エッチの願望と偉くなりたいという願望、この二つが根源的だ、というわけです。

また、デューイも同様のことを言っているそうです。

「人間のもつもっとも根強い衝動は、”重要人物たらんとする欲求” だ」

ここでデール・カーネギーは、フロイトとデューイの言葉の共通項から人間の本質を見て取ります。つまり、人間は誰でも「重要人物でありたい」と思う動物だと。「重要感」という言葉は、「自分は重要人物である、という感じ」と定義することができます。

人間は「顔」の動物である

さらに、この重要感という言葉は人間の体のある一部分で象徴することができます。その一部分とはどこか。それは「顔」です。「自分は重要人物だ」という感じはある種のプライドであって、そのプライドはしばしば「顔」という部位で表現されるんですよね。たとえば、「相手の顔を立てて」とか、逆にマイナスの意味でいうと「相手の顔に泥をぬる」とか「合わせる顔がない」とかいいます。

この「顔」という表現は、『人を動かす』の中でも直接出てくる表現で、『人を変える九原則』の中では「顔をつぶさない」という原則で出てきます。この原則の中で相手の顔を立てることの大切さをカーネギーは説明しています。その部分を引用しましょう。

「相手の顔を立てる!これはたいせつなことだ。しかも、そのたいせつさを理解している人ははたして何人いるだろうか?自分の気持を通すために、他人の感情を踏みにじっていく。相手の自尊心などはまったく考えない。人前もかまわず、使用人や子供を叱りとばす。もう少し考えて、ひとことふたとこ思いやりのあることばをかけ、相手の心情を理解してやれば、そのほうが、はるかにうまく行くだろうに!

と、ここまでで引用終わりです。

このように、相手のプライドのことをカーネギーも「顔」と言っています。そういうと、「いやいや、それは英語の本を日本語に翻訳したときに「顔」という表現になっただけで、英語では違うんじゃないの?」と思ったかもしれません。しかし、そうではないんですね。実際に原文の方を読んでも、

Let the Other Person Save Face.

という表現になっています。Save Face というのは直訳すれば「顔を守る」ということで、つまりは、プライドを守るということです。日本語と英語で全く同じアイデアが共有されていると考えると、「顔」がプライドを、ひいては、重要感を表現するということは人種を超えて理解されうるのかもしれません。

さて、人間は自己重要感の動物である、あるいは「顔」の動物である、ということが言えると、そこからおのずと、良い人間関係のためには何をしなければいけないのかがわかってきます。積極的に、「顔」を立てるということを考えると、そこからは、相手の名前を覚えたり、相手に関心を寄せたり、相手の美点をほめたり、あるいは、自分が聞き手に回って相手にしゃべらせたり、といったアドバイスが導かれます。逆に、消極的に、「顔」をつぶさない、ということを考えると、直接的に注意したり命令したりしない、議論や口論をしない、あら探しをしない、というアドバイスになります。これらのことが、『人を動かす』のそれぞれの原則に対応しています。

口論をすれば必ず負ける

このように「相手の顔を立てる、つぶさない」ということは、よい人間関係を構築するうえで根源的に重要なんですよね。よく「日本の若い奴らは喧嘩をすることを知らねえから打たれ弱いんだ」と言われますが、いやすみません、エビデンスはないですがそんな考えもあると思いますが、それはある意味重要なことであるといえます。喧嘩はできるだけ回避したほうがいいんです。

ここで今日のタイトル、大人は口論をしたら負け。まあ、一歩譲って、子供であれば実際に痛い目を見て、口論をして相手の顔をつぶしたらいけないんだということを学ぶのはいいことかもしれません。しかし、大人にもなって相手の顔を立てることを知らないのであれば、デール・カーネギーの『人を動かす』を読むのがいいでしょう。というのもこれは、つい最近まで、「自分が正しい」ということを信じて相手のできていないことを指摘してさんざんな失敗をしてきた僕からのおせっかいです。カーネギーの原則でも「口やかましく言わない」とあるので、説教じみたことはここでやめにしましょう。

さて、今回はデール・カーネギーの『人を動かす』から、人間は「顔」の動物である、というアイデアの共有をしてみました。興味を持たれた方は是非一度、この本を読んでみてください。僕たちの「人間関係」がにこやかなものになることを願って、初回の放送を終了しましょう。

それでは、ありがとうございました!

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