複式簿記のエッセンス

簿記は美しい。ゲーテは『ヴィルヘルム・マイスターの修行時代』(1782)の中で登場人物に「複式簿記は人類最大の発明の一つだ」と言わせたそうです。私も簿記を勉強している中でその発明の偉大さを感じ取ることができました。そして、その偉大さは数学的な美しさなのではないかと考えます。

簿記(Bookkeeping) は財務諸表を作成する技術です。財務諸表とは(企業の)経営活動の状況を記録した文書のことで、経営活動の全関係者にとって有益なものです。

企業の経営は多種多様な活動が互いに関係し合っていて複雑なものですが、しかし、その本質は2つの側面しかありません。すなわち、運用調達です。企業は資金を調達し、調達した資金で運用するわけです。(複雑に見える事柄の本質に単純な関係を見出すという点がまさしく数学的です。)

経営活動は上述のように、お金の運用と調達という観点で眺めることができます。また、運用と調達について、今まで「積み重ね」てきた運用・調達と、ある期間での(「今期限り」の)運用・調達というように考えて、その内訳を示してみましょう。

図1 運用と調達

お金の調達の仕方には誰かから借りるか、稼ぐかしかありません。そして、調達したお金は「所有する」という形で運用するか、使うかするわけですね(その使い方こそが「事業」と呼ばれているものです)。図1を複式簿記の用語で置き換えると次のようになります。

図2 複式簿記の用語で表現した運用と調達

経営活動を記録していく上で「仕訳帳」というものを作成しますが、その記載内容は「取引」であり、取引はこの4項目の増減であると言うことができます。実際、仕訳を書くだけなら資産、負債、費用、収入のどれが増減するのかと考えるだけで出来てしまうでしょう。

※複式簿記を必要以上に難しいものとしている原因が「借方」と「貸方」というネーミングであると思っています。これはそれぞれ Debit と Credit の日本語訳で、福沢諭吉が『帳合之法』(1873)で名付けたものでした。この書物の用語がデファクト・スタンダード(実質的に浸透している基準)なのですが、字から意味を推測するのではなく、ただ単純に「左を借方、右を貸方」と呼ぶと考えたほうがよいでしょう。

上記の4項目に加え、さらに「差額」を考えることで、複式簿記の基本の考え方を完成させましょう。まず資産の金額から負債の金額を引き、これを純資産と呼びます。

純資産 = 資産 ー 負債

また、収入から費用を引き、これを利益と呼びます。

利益 = 収入 ー 費用

純資産と利益という「差額」を導入することで、借方(左)と貸方(右)は下図のように必ず一致するようになります。

図3 差額である純資産と利益は借方貸方を一致させる。

上記のような基本的な枠組みができれば、あとは、資産、負債、費用、収入を細分化して「勘定科目」をつくり、取引を結果と原因で分けて記載すればよいだけです。このように取引を記録していくことを「仕訳」と言います。

この仕訳の仕方が少しクセがあるのですが、基本的に「マイナスは反対側に記載する」と考えればよいです。複式簿記が開発された中世ヨーロッパでは「負の数」がなかったので(驚きかもしれませんが!)、マイナスを表現したいとき、たとえば、資産の減少や負債の返済などは反対側に金額を記載することで表現しました。

【例】「160円のジュースを買った」という取引を仕訳する場合、資産の減少は、資産の反対側にある貸方(右)に書き、費用の増加はそのまま借方(左)に書きます。

飲食費 160 円  |  現金 160 円

このように、「マイナスは反対側に記載する」ルールを守れば仕訳も簡単です。

日々の仕訳をし、期末には締めと繰り越しを行います。費用よりも収入が大きく、よって利益が出た場合は、これを純資産に加えます。借方(左)と貸方(右)は必ず一致するので、資産が増えるか、負債が減るか(=借金を返済するか)して次期を迎えます。

図4 締めと繰り越し

このように複式簿記のエッセンスはシンプルで数学的です。その仕組みの美しさが私たちの経済活動を支えてくれていると、筆者は考えます。簿記のエッセンスだけなら、このように簡単なものなので、あなたもぜひ複式簿記を学習してみてください。

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簿記のことを学ぶためには、実践するのが一番。一番身近な実践として、家計簿を複式簿記でつけてみてはどうでしょうか?エクセルで複式簿記の家計簿を作る方法は、下記サイトが参考になるでしょう。筆者は今も、この『あがぺいブログ』さんの方法で家計簿をつけています。おすすめ!

今日はこの辺で。それでは。