『リヴァイアサン』を読む~問題提起~

『リヴァイアサン』を読もうと思う。読み進めるにあたって、下記のような問題提起をしてみた。
私が進めようとする考察はこの問題提起に従うから、読者もこれを読んで自分なりに回答を想像してみてほしい。

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問題提起

私は『リヴァイアサン』を読むにあたって、①~④の疑問を抱いた。

①『リヴァイアサン』が生まれたムードとそのインパクト

柄谷行人の『力と交換様式』から、交換様式Bを知り、興味をもった。

「つまり、このような契約は、服従すれば保護されるという関係を含意するものであり、一種の交換である。私はそれを交換様式Bと呼ぶ。それを最初に見出したのがホッブズである」(柄谷, p.102)。

『力と交換様式』のなかではホッブズ著の『リヴァイアサン』が交換様式Bの説明のために言及されている。『リヴァイアサン』にはどのような物語が展開されているのだろう。私は詳細を知りたいと思った。

『リヴァイアサン』はイギリスの市民革命の中で生まれた著作らしい。これを執筆した当時、ホッブズが生きていた時代のムードはどのようなものだったのだろう。ホッブズは、その革命からどのような影響を受けたのだろうか。そして、『リヴァイアサン』という一連のナラティブは、当時の人々にどのように受け止められたのだろう。あるいは、今を生きる日本人の私にどのような影響を与えうるだろうか。

『リヴァイアサン』は国家が主題であるらしいが、ホッブズの唱えた国家論は現代にも通用するだろうか。そういえば、プラトンも『国家』を書いた。関連はあるだろうか。あるとしたら、どのようなものだろうか。

『リヴァイアサン』の立ち位置、歴史的文脈を、私は知りたい。

②アナロジー、「原因」、警鐘

『リヴァイアサン』の主題は国家論、または、統治論ということになるだろう。先んじて『リヴァイアサン』の序説を読んだが、そこには、「技術」と「自然」の対比、アナロジーが書かれていた。

「自然(神がそれによってこの世界をつくったし、それによってこの世界を統治している、その技術)は、人間の技術によって、他のおおくのものごとにおいてのように、人工的動物をつくりうるということにおいても、模倣される」(水田訳、p.37)

序説ではさらに一例として、人間の技術から生まれる時計が、神の技術、すなわち、自然から生まれる動物と対比させられている。ここで、人間の技術を単に「技術」と置き、神の技術たる自然を単に「自然」と置いて、技術が自然を模倣する関係を矢印で表現すると次のような簡単な式ができる。

技術→自然 (技術は自然を模倣する)

この式を対比式と呼ぶことにしよう。そして、リヴァイアサンは次のような対比式の中で捉えられる。

リヴァイアサン→人間

だから、『リヴァイアサン』は人間、人類の考察から始まっていく。『リヴァイアサン』をぱらぱらと読んでみたが、どうやら当著は次のように論理が進んでいくらしい。

1部 対比式の右に置かれる、人間についての考察
2部 対比式の左に置かれる、人工的人間、すなわちリヴァイアサンについての考察
3部 キリスト教的な、つまり、理想的なリヴァイアサンについての考察
4部 キリスト教的なリヴァイアサンが実現されないときの、暗黒の王国についての考察

リヴァイアサンは、著作全体を通して「国家」、「人工的人間」、「コモン=ウェルス」といったように呼び名を替えられながら話が展開されていく。その展開のされかたは、アリストテレスの四原因、すなわち、質料因、形相因、始動因、目的因を語りつくすのだろう。その意気込みは扉にも現れている。

「リヴァイアサン すなわち教会的および市民的国家の質料、形相、および力」(水田訳、扉)

興味深いのは、最終部のテーマが暗黒の王国であるということだ。おそらく、ホッブズは、国家の理想状態を定義したうえで、その定義から外れた国家を暗黒の王国というのだろう。彼はイギリスの過渡期において、現状に警鐘を鳴らし、暗黒の王国からの脱出を訴えたかったのかもしれないと推測する。

しかし、これまでの私の考察は、腰を据えて読む前の、きまぐれな読み方による見立てにすぎない。この見立てはどれくらい当たっているだろう。それぞれの部では、一体どのようなことが語られるのだろうか。

③富としてのリヴァイアサン

リヴァイアサンは「コモン=ウェルス」とも読み替えられるだろうことは述べた。言葉通りに受け取るなら、リヴァイアサンは共通の富である。そういえば、政府も家計や企業と同じく経済主体であり、バランスシートが作られ、歳入と歳出がある。もちろん、政府と国家は同義ではないだろうが、経済学や会計学の枠組みの中でリヴァイアサンを、国家を語るとしたら、どのように論が展開されうるだろう。

④キリスト教の中でのリヴァイアサン

もともと、聖書に出てくる海の怪獣がリヴァイアサンだ。リヴァイアサンは、聖書中どのような文脈で語られるのだろう。キリスト世界の中でのリヴァイアサンのふるまいも興味深い。

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以上述べたようなことを踏まえれば、『リヴァイアサン』を読み進めるうえでの有用なキーワードは次のようになるだろう。

キーワード:ムード インパクト 技術 自然 警鐘 富 キリスト教

まずは物語そのものに是非とも当たりたい。したがって、あらかじめ準備しておいた対比式を念頭に読み進めてみよう。

参考文献
柄谷 :柄谷行人『力と交換様式』(岩波書店、2022年10月5日)
水田訳:ホッブズ著、水田洋訳『リヴァイアサン』(岩波書店、1992年2月17日改訳)

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