読書オンチの治し方

翔太って本の内容を一字一句覚えているみたいに話せるよね。私、本を読んでも全然内容を覚えられないの

と母は言った。翔太は私の本名だ。私は哲学が好きで、なんのきっかけだったか、ソクラテスの対話編の話を退屈しのぎにしていたのだった。

本を読んでも全然内容を覚えられない

というのは、あまり気分のいいものではないだろう。「私って頭悪いのかしら」と思って自信を失ってしまう人もいるかもしれない。

しかし、そんな風に思わないでほしい、というのが私の願いだ。これは能力の問題ではない。方法の問題である。

本が読めないなら、本を読む方法を知ればいい

ということで、今回のテーマは読書の方法についてである。

本が読めないのは能力の問題ではない、方法の問題だ・・・こんな偉そうなことを言っている私だが、私は私で、学生時代は本を読めない悩みを抱えていた。しかし、その悩みは母の悩みとは違う。本が最後まで読めない、という悩みである。

学生時代、私は「完璧主義」に陥っていた。意気込んで、本を最初から恐ろしく丁寧に、そして正しく読もうとしていたので、結局、最後まで読めないということが多かった。

本が最初しか読めない

物事を完璧にやりきることはすばらしいことだ。しかし、「完璧にやろう」という意気込みだけで、結果としてやりきれないのならそれは「完璧主義」なのである。

今回は、母のように、あるいは、学生時代の私のように本を読むことに悩んでいる人が、本を読む方法を知って、本を読めるようになるまでの、そして、本を読める自分に自信をもてるようになるまでのお話である。

しかし、それではいったい、本はどのように読めばいいのだろうか?

本を読めないという状況を、ほかの状況になぞらえてみよう。本を読めないということは、例えば、方向オンチの問題と似ているのである。

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ある日、テレビを見ているとCBCテレビで方向オンチの治し方が紹介されていた。方向オンチの治し方に詳しい北村壮一郎さんという方が、方向オンチに悩んでいるアナウンサーにその治し方を伝授していた(YouTubeに同じ内容があったので共有しよう)。

舞台は名古屋市の大須で、ミッションは、大須商店街で地点 A から地点 B までを往復するというものだ。

その時にアナウンサーが言った言葉が印象に残っている。

方向オンチの人って周りをよく見ていないんですかね

この言葉には、本が読めない人、いわば「読書オンチ」の治し方のヒントが隠されている。「ただぼーっと歩いているだけで周りを見ていない人」というのは、「ただぼーっと本を読んでいるだけでよく考えていない人」なのだ。

ほかにも、方向オンチと読書オンチとはさまざまな点で似通っている。今回はその類似点から、「読書オンチ」を治す方法を取り出してみよう。

読書オンチな人の5つの特徴

①目的地が決まっていないのに出発する

そんなアホなことを・・・という人もいるかもしれない。しかし、こと読書になると、そんな「アホなこと」をやってしまう人がいる。

どこに行きたいか分かっていないのに出発すれば道に迷ってしまうだろう。あるいは、道に迷うというより、目的が分からないと歩くことがダルくなってしまって、嫌になってしまうだろう。読書でもそれは同じである。

もちろん、その迷うことそのものが楽しみならいい。放浪することが目的の旅もある。しかし、そういう場合ですら「迷うことを楽しむ」が目的であると自覚するのがよいのであって、いずれにせよ、「なんのため」ということを意識することが大事なのだ。

②あらかじめ地図を見ない

「分かんないけど、多分こっちでしょー」と自信満々に歩く人には付いていきたくないだろう。

読書というのはある意味、知識の森に入っていくことだ。森の中で迷う人の典型的なパターンを、あなたも知っているだろう。

木を見て森を見ず

読書を含め、学習の基本的な戦略は「全体から部分へ」というルールである。地図を見ないというのは、このルールから外れてしまうことなのだ。

③ふりかえらない、周りを見ない

方向オンチの治し方では、曲がる前と曲がった後で、来た道を振り返って見える風景から興味が惹かれるものを探す。そして、興味が惹かれるものを目印としておくのである。この目印のことを番組の中では「アンカー」と呼んでいた。

アンカーを作っておくと、B 地点から A 地点に戻ってくるとき、「どこで曲がるか」と「どっちに曲がるか」がわかる。このアンカーを頼りに、来た道を辿るのだ。

同じ道でも行きと帰りで景色は全然違うものだ。

来た道を振り返る

それが方向オンチの治し方のポイントである。これは読書でも同じだ。

母はきっと、読むだけで「読んだ内容を振り返る」ということをしなかったのである。来た道を戻れないことと読んだことを覚えていないことは似た問題である。

④一回の旅で見えるものすべてを覚えようとする

「完璧主義」と切っても切れない問題がある。「0か100か」思考だ。

読んだ内容を振り返らないと覚えられない、ということを上で述べたが、それをやりすぎると、全然進まなくて読み切れない、という問題が発生する。

学生時代の私は、結構本気で、本の内容を一字一句覚える勢いで本を読もうとしていた。それは、最後まで読めないわけである。

あなたは、歩いた街の景色をすべて緻密な点まで覚えようとするだろうか?

きっとそんなことはしないだろう。もしそんなことを意気込んでいる友達がいたら「そんなバカなことやめときなよ」とアドバイスしてあげるにちがいない。

⑤違うルートを試さない

これは私自身の話でもある。一度行きなれた道があると、その道ばかり使ってしまってほかのルートを試そうとしない。

私は生け花の習い事をしているのだが、先生の教室までいつも同じ道を使っていた。地下鉄を使い、駅を降りてからは徒歩で 10 分ぐらいの場所である。初めて教室に行ったときと同じ道で、別にそれでも問題はなかったのだ。

ある日、帰り際に先生に言われた。

あなたいつも玄関を出て左から帰るのね。右のほうが近いのに・・・

「左」の道というのは大通り沿いの道だ。「右」の道は住宅街の小さい道を行く。ものは試しだ。右から行ってみよう。

するとびっくり。なんと 5 分で駅に着いてしまうではないか!

近くには ATM やスーパーマーケットなどもあり、「へえ、こんなところもあったのか!」という発見があった。

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何を言いたいのか、きっと察していただけただろう。人はできるだけ変化を避けたがる。どれだけ合理的ではないとわかっていても、変化するというのは怖いのである。

また、やっかいなことに、人は面倒くさがりでもある。もうすでにうまくいっている方法があるなら、それでいいじゃないか。それもそうである。しかし、それでは、いつもと違う日常は味わえない。

読書も一緒ではないか。ある著者のある本が好きなことはよいことだ。しかし、同じ著者でもほかの本では論じ方が違うかもしれないし、あるいは、同じテーマでもさまざまな著者の声を聴けば、それだけ読書体験は豊かになる。

いつもの 1 / 2 の時間で行けるルートがあるのに、それを試さないのはもったいないではないか。

読書オンチの治し方

これまでに、読書オンチの人の特徴を紹介した。では、読書オンチな人はどのように本を読めばいいのだろうか?

答えは想像できていると思う。それらの特徴の、反対を行けばいいのだ。

①目的地を決めてから出発する

本を読むときは目的地を定めよう。読書における目的地を設定するときは、次の3つのことを自分自身に問いかけるといい。

A. この本を読むとどんな良いことがあるのか?

何か読みたいと思っている本を手に取ってみよう。そして問いかけてほしい。あなたはなぜ、いま、その本を読もうと思っているのだろう?

資格試験に合格するために必要な知識なのだろうか?家族や会社の人たちとのコミュニケーションを改善しようと思っているのだろうか?お金を稼ぐためのスキルが欲しいのだろうか?著者が知っている人でその人のことをもっと知りたいから?あるいは、退屈しのぎにパラっとめくっているだけだろうか?

いずれにせよ、あなたはその本を読むことによって、読後に何かしらの<良いこと>を期待しているのである。

あなたは、その本にどんな良さを求めているのだろう?

もっとフランクに言えば、その本から何を得たいのだろうか?

それがあなたの目的地になる。

B. どれくらい丁寧に読みたいか?

あなたは今、目的地を設定した。そして、ここが重要なのだが、目的地に到達してしまいさえすれば、そこで読書は終わってもいいのだ。

たとえば、ある本を読む目的が「著者が訴えていることの大枠さえ分かればいい」のであれば、別に最初から最後まで読む必要はない。目次だけ読んで終わり、という読書でもよいのだ。

「それでいいの?」とあなたは聞くかもしれない。

それでいいのだ!

大事なのは目的を達成したかどうかなのであって、目次を読んで得たいものさえ得られれば、そこで読むのをやめればいい。

読む目的を優先しよう。別に最後まで付き合わなくても、本は怒ってきたりしない。

C. 今、この本を読むのにどれくらい時間をかけたいか?

前の質問でどれぐらい丁寧に読みたいか、ということを決めたはずだ。

最初から最後まで、全部、覚えるくらい読みたい!

なんていう猛者もいるかもしれない。別にそれはそれで結構である。しかし、今、それだけの読む時間があるのだろうか?

丁寧に読めば読むほど、当然ながら、長い時間がかかる。今、この本にどれぐらい時間をかけてもいいと思っているのか。この質問はコスト意識をもって、その本の良さを改めて真剣に問い直すことである。

別に読書だけが人生じゃない。ほかにも楽しいことはたくさんある。その本は、あなたのその貴重な時間を使って読むべき本だろうか。

全部読むことだけが読書ではない。そのなかで、自分にとって印象深い、ためになる一行や一言に出会いさえすれば読書は成功である。

さて、自分に問いかけてみよう。

今自分は、この本を読むことに何分ぐらい時間をかけたいだろうか?

②あらかじめ地図を見る

本という街に繰り出すときは、ぜひとも地図を携えてほしい。本における地図とは何か。それは目次である。

学習の基本的なルールは「全体から部分へ」である。目次は、本の全体感や著者の思考の枠組みをつかむためにうってつけだ。

読みたい本の目次を開いてみよう。著者はどのように話を進めようとしているだろうか?そもそも、あなたの設定した読む目的に適うような本だろうか?

そして目次を見て読む目的に合致しないと思ったら、その本は読まないことだ。

もう一度言おう。

目次を見て読む目的に合致しないなら、その本は読まないことだ。

もしあなたが、パン屋で焼きたてのクロワッサンを買いたいと思ったとき、A 町の地図を見てパン屋がなかったら A 町に出掛けるべきではない。電車をつかって B 町まで行く計画を立てるべきだ。

そして、B 町にパン屋があったなら、そこの営業時間を調べるだろう。また、「焼きたて」にこだわるならその店に電話して「クロワッサンは何時ごろ行けば焼きたてが食べられますか?」と聞くのがいい。

読書も同じである。せっかく読んだのに目的を達成できないのは悲しい。目次を読もう。あるいは、まえがきあとがき、本の中にある図表をパラっとみて、お目当てのものがあるのか調べるのである。

こういったことを前もっと調べておくことは、読むモチベーションを高める。読み進めれば自分の目的がかなう、自分の求める良さが手に入ると期待できることは学習の維持にもつながるのだ。

③ふりかえる、周りを見る

これから、ある質問をする。そのあと目を閉じて、その質問に対する答えを心の中に浮かべよう。

それでは、質問。

この記事は冒頭、どのようなエピソードから始まりましたか?

それでは、目を閉じて、答えを心の中に浮かべよう。答えが浮かんだら、静かに目を開けよう。

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・・・・・・・

・・・・

さて、質問の答えは浮かんだだろうか。

答え合わせはページの冒頭を改めて読んでみよう。

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ポイントは「目を閉じる」ということである。物理的に、情報を自分からいったん突き放すのだ。

このように問いかけをするとき、ある人は「えっ、なんだっけ?」と戸惑うかもしれない。その戸惑いが学習を効果的なものにする。工夫をしないと人は、ぼーっと時間を過ごしてしまう。しかし、自分自身に小テストを実施するように、いったん本から離れて心の中で自問自答すると、内容の理解度は向上する。

ほかにもいろいろな問いかけができるだろう。

この記事は何から始まって、どのような論理展開をしているのだろうか?・・・読書オンチの 5 つの特徴ってなんだったっけ?自分はこの記事のどこに共感しただろう?・・・この記事の著者が言っていることの中で、今まで自分が意識しなかったことは何だろう?何か新しい発見はあっただろうか?・・・逆に、言っていることで「これは違う!」と思うところはなかったか?・・・そもそも、この記事を読もうと思った目的はなんだったっけ?この記事は、その目的を満たしてくれているだろうか?・・・ここに書かれていること以外で、どんな問いかけをするといいだろうか?・・・

母が本の内容を忘れてしまう理由の一つは、きっと、こういった問いかけをしなかったことである。

本を読むということは、自分自身への問いかけなのだ。

④「まあ、また来たときに」と思うようにする

上で述べたように「問いかけ」というのは大切だ。しかし、何事も「いい加減」というものがある。まさか、こんなことを考えていないだろうか。

「うーん、この本の 3 ページにある書いてあることがわからない・・・これはいったい、どういうことなのだろう?これがわかるまで先へ進めないなあ

いやいや、分からなくても先に進むのだ!

世の中極端な人がいるもので(かくいう私もそうなのだが)、分からないことがあるとそこに立ち止まってしまう人がいる。

もちろん、少し立ち止まって、目をつぶるくらいならいい。そういう小テストはぜひ実施してほしい。

しかし、そのテストに答えられるまで動けないというのは問題である。別に分からなくてもいいではないか。読書をしていて分からないことがあっても本は爆発したりしないのだ。

「完璧主義」はどのような分野であれ、その人の柔軟な心を奪ってしまう。大切なのは

次に読んだときに分かればいいや

という軽やかな気持である。

そもそも、「一回の読書で全部わかりたい」なんて土台無理な話だ。理解とは層を重ねていくものである。

最初は目次だけ読んで大枠をつかむ。その次は、論理展開を想像する。その次は、その本のキーワードを探してみる。その次は、一回通して、立ち止まらずに読み通してみる。もし、気になったところがあったら詳しく読んでみる・・・

もし手にしている本があなたの人生にとって重要な本であれば、その本はきっと何回もページをめくって、そのたびにその言葉を味わうものになるだろう。昔わからなかったことが今ならすんなりわかることもある。

別に一回きりの出会いではない。大切な本は、何回も巡りあうものである。

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何回も本を読むということで補足すると、最初は「素直に信じて読む」アプローチをとり、徐々に「相手を疑って読む」アプローチをとるといいだろう。

一回目の読書でいちいち相手のことを疑っていたら読める本も読めなくなってしまう。最初の読書では著者の「信者」になって、「うんうん、そのとおりだ」と思ってまずは読み通すといい。そして、読んだことを素直に実践していく

そして二回目以降の読書では徐々に疑いの目をもって、自分自身に負荷をかけていこう。

この人の言っていることは本当だろうか?説明に矛盾しているところはないだろうか?エビデンスはちゃんとあるか?・・・ほかの著者は B だと言っているが、この人は A だと言っている、どっちが本当だろうか?・・・その人の言うとおりに実践してみたけど、上手くいかなかった。やり方がまずかっただろうか?あるいは、この人の言っていることが間違っていたり、情報が古くなっていたりしないだろうか?・・・

こうした違う態度をとれるのも、「何回も読めばいい」という安心感があってこそである。

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⑤違うルートを試してみる

世の中にはいろいろな人がいて、それぞれ個性豊かなバックグラウンドをもっている。バックグラウンドが違えば、同じゴールにたどり着いたとしても、採用するルートが違うかもしれない。

私が 1/2 の時間でたどり着くルートを発見したように、あなたも読んだ本とは違うルートを探してみよう。

同じテーマでも違う本を読んでみれば、その本の著者とほぼ言っていることが同じでただのバリエーションに過ぎない著者と出会えたり、より分かりやすい著者、あるいは、言っていることが正反対の著者に出会えたりする。

また、もしあなたがある程度お金に余裕があるなら、何かのテーマで本を読もうと思った時には、5 冊くらいまとめて本を買ってほしい

もし 1 冊しか本を買わなくて、その本との出会いが最悪なものだった場合(あなたにとって難しくてとても読む気にならないなど)、嫌気が差して調べる気すらくじかれてしまう。

しかし5 冊ぐらいがあれば、そのテーマについて標準的な説明がされている本、あなたにとってなじみやすい本、ユニークでちょっと変わっている本などと出合えるだろう。その中で、相対的に易しい本とも出合える。それに、5 冊くらいパラっと拾い読みすれば、どこが大体共通しているのか(その分野の常識)、どこか意見の分かれ目なのか(争点、論点)なのかが分かりやすい。

一つの答えに満足せずに、違う解き方を探ってみる

数学の問題の解き方と同じように、余裕があるときは違う理解の仕方を探ってみよう。そのことがしなやかでたくましい読書体験を生むのである。

おわりに

以上で、方向オンチになぞらえた、読書オンチの処方箋の説明はおしまいだ。

私は、本というのは著者の考えが精選されて述べられたアイデアの宝庫だと思っている。しかし、読み方を知らないと私の母のように、あるいは、昔の私のように、読書体験がフラストレーションになってしまうだろう。

そのイライラ感というのは、欲しいものがあって、それが近くにあるのに手に入れられないような状況だ。例えるなら、お腹が空いていて缶詰もあるのに、缶切りがないばかりに食事にありつけないようなものである。

この記事を読んだ(おお!もう読書の方法がわかっていますね!)あなたにはぜひ、読書の方法を知ってもらって、豊かな知識の世界に出かけてほしい。

難しいことは何もない。リラックスをして少しずつ読み、ときどき振り返る。それだけの話である。

著者との出会いがあなたの暮らしを豊かにすることを願って。

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参考図書

本記事はポール・R・シーリィ 著 神田昌典 監修 井上久美 訳 『あなたもいままでの10倍速く本が読める』(フォレスト出版)を参考にしました。この本を読んで、ぜひ、読書の技術を高めてください。

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